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心身に溜まった世の中の嫌な毒をデトックスしましょう。


by jinsei-detox

セルゲイ・フィーリン襲撃事件の裏にあるもの

 先日1月17日の夜、モスクワボリショイ劇場の芸術監督セルゲイ・フィーリンが内部関係者によって強酸性の液体をかけられ大けがをさせられたというニュースがバレエファンの間に飛び交った。幸い数度の手術によって失明は避けられたようだというのが唯一のほっとする伝聞だった。
 聞いた話に寄ればフィーリンはボリショイ劇場の従来の制度を改革していこうとする旗手だったらしい。つまり伝統的なバレエの興業の仕組みからダンサーの起用の仕方も変えていこうということを考えていたらしい。そこには外部からのダンサーの起用であったり、ダンサー構成員の序列を飛び越えての起用や演目の打ち出しかたなどがあるだろう。当然そこには従来の秩序を変えたくない人もいただろうし、恨みを持つものも出てきたには違いない。
 ロシアバレエはいまボリショイ劇場だけでなく、マリンスキーも、ミハイロフスキー劇場も大きく従来のあり方では成り立たなくなっているようで、そこにさまざまな組織の葛藤があるようだ。たとえばボリショイからサラフォーノフやワシリーエフという超スターを引き抜いたミハイロフスキー劇場はナチョ・ドアウトという人気振付家を招いて全面的に話題性のあるバレエ団に変身させた。これも経営者がお金にものをいわせたからだといわれている。で、スターをいろいろ連れてくるのはいいのだが、従来いたバレエ団員の待遇をないがしろにしたり若手の出番のチャンスがなくなってくるという現実も当然現出しだしてきているのだ。
 なぜこのような問題が大きく露出してきたかといえば、大胆にいえばソビエト時代のバレエという安定した組織の成り立ちが現ロシアになって消滅したからだ。つまり国家が全面的に面倒をみなくなったということもあるのだろう。かつてバレエダンサーといえば花形の職業で、年金も保証され待遇も保証されていたのだ。
 当然ダンサーの生活はスターは除くとして、厳しい現実を強いられてきたようだ。
 息子の話では9年間バレエ学校で修練したダンサーの給与よりもマクドナルドの新人店員の給与の方が上まわっているという店員募集のポスターをある日、見て愕然としたという。

 だからこの悲劇の裏にはただの妬みや僻みというような単純なものではなく、ロシア国家のひずみの一部として見なければならないのだと思う。

 今日の読売新聞記事にはバレエファンは失望の内にこの知らせを聞いたと書いてあるが、ロシアバレエ界の崩壊の一端にこの事件の深層を見なければならないのだ。とにかく絢爛と花開いたロシアバレエの担い手たちが自分たちの磨いた技術を朽ちることなく存在していくことを願うのみである。
 しかし無責任な言い方になるがこれからはロシアバレエから目が離せなくなるようだ。
 





 
by jinsei-detox | 2013-01-31 17:33 | 文化