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心身に溜まった世の中の嫌な毒をデトックスしましょう。


by jinsei-detox

タン・ダンの「始皇帝」


  前回に引き続きオペラの話をしようと思うが、この「始皇帝」というオペラの感想を言うとなると中国という国についてどうしても触れざるを得なくなる。それは気が重いことなので、書くことを躊躇してしまう。ただ僕のようなオペラの素人が見ても、この作品はオペラという形式に拘りすぎたのではないかと思う。中国という国家を作る始皇帝の孤独と苦悩を描くということが、なんだか興ざめなのだ。
  たしかにチャン・イー・モウの演出は官能的でもあり、造形美としてもすばらしいものがあるが、表現として新しさを感じない。というよりもとても拙いのだ。しかし、おおよその観衆はこのオペラを見て中国という国を好きになるだろう。偉大な歴史を持つ中国は、やはり現代に不死鳥のごとく蘇り、覇権国家として振る舞うのは、歴史的にもなんとなく説得性があるように感じられてしまうだろう。そこがなんともやりきれないところなのだ。
  僕も30年近く前、中国に行ったことがあるが、(4人組が検挙される少し前)当時と今ではあまりの変わりようで(実際にはあれ以降行ってはないが)歴史の不可思議さを如実に感じいってしまう。
  あの頃、上海の港に近い公園にいると若い学生が近寄ってきて、日本語を話したいので少し相手をしてほしいと懇願されたことがある。別れ際その学生が僕にこういったものだ。「中国はまだまだ遅れています。でも100年後には日本を追い越すような国になっています」と。
  僕は「頑張ってな」とも言えず、笑いで誤魔化していたけど、その迫力を感じてたじたじとしたものだ。ほんとうに100年どころか30年で一応追いついたわけだ。すごい連中だと思う。でも中国にいるある知識人に聞くと、中国の急成長のひずみは至る所に噴出しており、とくに農村部では7秒に1回の割合で暴動めいたものが起きているという。
  いまや中国は世界の工場どころか、マーケットとしても膨大な広がりを見せているからどこの国も離れるわけにはいかない。日本も技術を徹底的に盗まれる目に遭いながらも、離れるわけにはいかなくなっている。
  来年はオリンピックだ。このオリンピックにオペラ「始皇帝」が北京で公開されるという話も聞く。つまり、政治的な匂いがぷんぷんするオペラでもあったのだ。もちろんタン・ダンにもチャン・イー・モウにもその意識がなくてもそう仕組まれるオペラだったというのがやりきれないところだったのだ。
 あのオペラ歌手の巨匠、ドミンゴが75才で42才の始皇帝を演じ歌う迫力をどのように世界は観るのであろうか。中華帝国の復活を世界はほれぼれとしてみるような気がしてならない。
by jinsei-detox | 2007-04-13 08:03