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心身に溜まった世の中の嫌な毒をデトックスしましょう。


by jinsei-detox

斎藤友佳理のラ シルフィード

  東京バレエ団の斉藤友佳理の「ラ・シルフィード」を9年ぶりに観た。僕は彼女の踊りに凄みを感じた。。
  「ラ・シルフィード」というバレエの演目はロマンチックバレエの最高峰に数えられる作品であることはバレエ通なら誰でも知っていることだが、彼女くらいにこの作品を輝かせるバレエリーナはいない。
  この作品は妖精がスコットランドの若者ジェームス(許嫁のある)に横恋慕して死んでいく物語といえば実も蓋もない話に聞こえるが、これがすごいバレエという表現ジャンルの奥深さをまじまじと感じる構造になっている。
  僕もスコットランドに行ったことは何度もあるが、実はスコットランドは妖精の国としても文学通には知られているところである。妖精ではないけど、シェークスピアの「マクベス」にも出てくる魔法使いのお婆さんたちも妖精の仲間といえば仲間だ。その妖精ラ・シルフィールドは許嫁のいる若者に恋をしてしまう。若者には妖精が見えるが婚約者には見えない。でも婚約者は何となく感じるものがある。この関係がバレエのパドゥドゥ(男女ペア)そしてパドトロア(男と二人の女)の踊りで表現されるのだが、その斉藤友佳理の踊りが白眉なのである。恋しい男に思いを寄せる心情が、妖気迫る女の業のようなものとして感じられるのだ。その姿が切なく、愛しくて僕は泣いてしまったのである。9年前の話である。バレエで泣くなんて信じられない。
 能で井筒という夢幻能があるが、このシテを今は亡き宝生流の高橋進が演じていたのを観たことがあるが、この井筒という女性も恋しい男を思い詰めて自分がその男の衣服をまとい男を舞うという能である。このときも感動のあまり泣いてしまったが、僕は斉藤友佳理にあの夢幻能を思い起こさせてしまった。
  その妖精のいじらしさを30代半ばの女性が少女のように舞うのである。まさに斉藤友佳理のバレエは舞うという言葉がふさわしいのだった。
日本の舞は巫女が狂信する際に旋回する姿が本質であるとされているのだが、斎藤のラ シルフィードはその舞に近いと感じられるのだ。
  さてこの物語の若者は狂うまでに手に入れたい妖精を魔法使いの教え通りに捕獲すると妖精は一瞬にしていのちを失ってしまうという悲劇をもっている。許嫁も病死し、一度に宝をなくしてしまう若者の姿に僕らはいろんな暗喩を感じ取れるのである。若者を愛していた許嫁も横恋慕した妖精にもいとおしさを感じながらため息このバレエの奥行きの深さに感動したのだった。   
by jinsei-detox | 2007-06-30 23:19